ニュースの概要
週刊不動産経営の9月28日号が、最終面特集で不動産分野における木材利用の広がりを取り上げた。題名にあるとおり、都市部と郊外の双方で普及が進む現状を扱っている。背景には、環境配慮への関心の高まりや、防火規制の見直し、木質部材の技術進歩があるとみられる。木はもはや建てるための素材にとどまらず、物件の価値や街の印象を左右する要素として扱われ始めた。本稿では、この流れが林業や国産材の流通にどう響くのかを、供給側の視点も交えて考える。
引用元: 【9/28号・今週の最終面特集】不動産での木材利用 都市部および郊外で普及進む今に迫る(週刊不動産経営)
分析・見解
都市の木造ビルは環境価値を売る商品になった
都市部で木材が選ばれる最大の理由は、建設コストではなく環境価値にある。木は育つ間にCO2を吸い、建物の中で炭素を長く抱え込む。投資家や入居企業が気候変動への取り組みを開示するよう求められる中で、木造や木質化したビルは「脱炭素に動いている建物」と説明しやすい。環境配慮に敏感なテナントを集められ、賃料や物件の評価に反映されれば、木は費用がかさむ素材から収益を支える素材へ変わる。
ただし、環境価値は測り方で見え方が変わる。炭素の固定量を数字で示せない物件は、単なるイメージ施策と受け取られやすい。算定の根拠をそろえることが、木造ビルが一過性の流行で終わらないための条件になる。
防火の壁を下げた法整備と部材技術の進歩
かつて木造の大型建築を阻んだのは防火規制だった。近年は燃えしろ設計(=表面が焦げても中心部が残るよう太く作る考え方)や耐火被覆の技術が進み、建築基準法も段階的に見直された。2021年には、公共建築物だけでなく民間建築物にも木材利用を広げる法律が施行されている。CLT(=板を直交させて貼り合わせた厚い木の板)や集成材の供給網も整い、設計者が選べる部材は確実に増えた。
一方で、2025年4月には4号特例が縮小され、小規模な木造住宅でも構造の審査が厳しくなった。品質は底上げされるが、設計の手間は増える。普及の追い風と事務負担の増加が同時に来ている点は見ておきたい。
郊外は地域の木を地域で使う循環が鍵になる
郊外の住宅や中規模施設では、木の産地が価値になりつつある。地元の木を使えば輸送の排出量が減り、住まい手にも物語として伝えやすい。国産材の自給率は4割前後まで回復したが、2021年のウッドショック(=輸入材の不足と急騰)では、輸入材に頼る危うさが表面化した。価格と供給量の読みやすさから、国産材を見直す工務店は少なくない。
また、郊外の施設は都市のビルより規模が小さい分、地元の製材所が直接納められる余地が大きい。大手の調達網に乗りにくい中小の製材所にとって、地域の発注は数少ない販路の一つである。
需要が先に伸びると山側の供給力が壁になる
ここに、話題の中心から一歩進んだ論点がある。需要の伸びに、山と製材所の能力が追いつくかどうかだ。木造ビル1棟には数百立方メートル単位の木が要り、しかも同じ規格の乾燥材を同じ時期にそろえる必要がある。住宅の部材とは勝手が違う。太く育つまで数十年かかる木は、需要が増えたからといって翌年に増やせない。
需要だけが先行すれば、価格の高騰や納期の遅れを招き、せっかくの木造化への意欲を冷やしかねない。不動産側が木を使うことと、林業側が伐った後に植えて育てることを、一つの循環として設計できるか。それがこの流れの持続性を決める。
ビジネスへの影響
開発の初期段階で木の調達計画を組み込む
デベロッパーや事業主にとって最初の実務は、設計が固まる前に木材の調達先と納期を押さえることだ。木は鉄やコンクリートと違い、規格、乾燥、産地の確認に時間がかかる。基本設計の段階で製材所や集成材メーカーと話し、必要量と時期を共有しておけば、納期遅れや仕様変更による費用増を避けやすい。可能なら複数の供給元を確保し、一社の欠品で工事が止まらないようにしたい。社内でも設計、購買、環境担当が早めに同じ席で検討すると、判断が速くなる。
工務店と製材所は小口の安定供給で選ばれる
郊外の住宅や中規模施設を手がける工務店は、産地を明示できる体制を整えると差別化になる。どの山の木か、いつ伐ったかを説明できれば、施主への訴求力が増す。製材所は大型案件だけを狙わず、地域の工務店向けに規格材を切らさず出す体制を磨くほうが堅実だ。年間の発注見通しを共有する協定を結べば、双方が在庫の判断をしやすくなり、価格の急変にも耐えやすい。
投資家には炭素固定量の数字と費用比較を示す
投資や融資の判断では、環境価値を数字で語れるかが分かれ目になる。使用した木材の量から炭素固定量を算定し、第三者の確認を受けた形で開示すれば、イメージ施策との差が明確になる。あわせて、メンテナンス費、保険料、防火対策の費用も事前に見積もる。木造は初期費用が読みにくい面もあるため、鉄骨造との比較表を作り、賃料上乗せの想定と並べて検討するとよい。
最後に、森林側への還元も視野に入れたい。伐採後の再造林を支える仕組みや、森林由来のクレジット(=温室効果ガス削減量の取引証書)との組み合わせは、調達の持続性を高める手段になる。