REPORT 04

森林クレジット(J-クレジット)ビジネスの現況

木を売る以外に、森林から収益を生む方法がある――。森林のCO2吸収量をクレジット化して企業に販売する森林クレジットは、立木価格の低迷に苦しむ林業に新たなキャッシュフローをもたらす存在として、急速に注目を集めています。本ページでは、J-クレジット制度の森林分野を中心に、制度の仕組み、創出フロー、価格動向、そして課題までを整理します。

J-クレジット制度と森林分野の方法論

J-クレジット制度は、温室効果ガスの排出削減量や吸収量を国が「クレジット」として認証する制度です。認証されたクレジットは、カーボンオフセットや温対法・GXリーグでの報告などに活用でき、企業間で売買されます。森林分野には主に二つの方法論があります。

対象となるのは森林経営計画等が策定された森林で、プロジェクト実施者は森林所有者のほか、自治体、森林組合、企業など多様です。認証対象期間は最長16年(更新により延長可)と長期にわたるため、継続的なモニタリングと適切な森林管理の維持が前提となります。

なぜいま拡大しているのか――2022年の制度見直しと脱炭素需要

森林クレジットは制度開始当初、手続きの煩雑さと収益性の低さから登録が伸び悩んでいました。転機となったのが2022年の方法論見直しです。主な変更点として、(1)クレジットの認証対象に「主伐後の再造林」を位置づけて算定方法を合理化したこと、(2)モニタリングにリモートセンシング(航空レーザ等)の活用を認めたこと、(3)プログラム型プロジェクトにより小規模所有者の取りまとめを容易にしたこと、が挙げられます。これにより創出コストが下がり、登録プロジェクト数は制度見直し後に急増しました。

需要側の環境も追い風です。2050年カーボンニュートラル宣言以降、自社の排出削減だけでは目標達成が難しい企業によるカーボンオフセット需要が拡大し、なかでも「国内の森林を守る」というストーリー性を持つ森林由来クレジットは、地域貢献・生物多様性保全の文脈も評価され、再エネ由来など他区分のクレジットより高値で取引される傾向が定着しています。GX-ETS(排出量取引制度)の本格稼働により、適格カーボンクレジットとしての需要拡大も見込まれています。

J-クレジット売買入札価格の傾向(区分別イメージ)

省エネ由来
低め
再エネ由来
中位
森林由来
高値

J-クレジット事務局の入札販売結果等では、森林由来は1t-CO2あたり1万円を超える水準が付くこともあり、他区分(数千円台)を大きく上回る傾向が続いています(時期により変動)。

クレジット創出の実務フロー

森林クレジットを創出して売却するまでの流れは、おおむね次のステップで進みます。

  1. 事前検討:対象森林の要件確認(森林経営計画の有無等)、吸収量の試算、事業収支の見積もり。
  2. プロジェクト計画書の作成・登録:方法論に沿って計画書を作成し、審査機関の妥当性確認を経て制度に登録します。
  3. 森林管理とモニタリング:計画に基づく間伐・再造林等を実施し、数年ごとに吸収量をモニタリング報告します。ここでリモートセンシングの活用が可能です。
  4. 検証・認証:第三者機関の検証を経て、J-クレジット認証委員会がクレジットを認証・発行します。
  5. 売却・活用:相対取引、仲介事業者経由、入札販売などでクレジットを売却します。地域企業とのパートナーシップ型の相対契約も増えています。

一連の手続きには専門知識が必要なため、計画書作成からモニタリング、販売までを代行・支援するクレジット創出支援事業者のビジネスが成立しています。自治体が主体となり、市有林・県有林でクレジットを創出して財源化する事例も全国に広がっています。

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課題――モニタリングコスト・長期性・信頼性

拡大の一方で、課題も明確になっています。第一にモニタリングコストです。広大な森林の吸収量を正確に把握するには現地調査の負担が大きく、クレジット収入の相当部分が調査・審査費用に消えるケースもあります。ここは航空レーザ・衛星データによる材積推定の自動化で改善が進む領域であり、林業テック企業の参入が最も活発な分野です。

第二に事業の長期性です。認証対象期間は十数年に及び、その間の森林管理義務や、山火事・風倒などによる吸収量喪失リスク(バッファーとして一部クレジットが留保されます)を負う必要があります。第三にクレジットの信頼性・追加性をめぐる国際的な議論です。ボランタリークレジット市場では品質への監視が強まっており、J-クレジットにおいても算定の厳格さと透明性が市場価値を左右します。信頼性を担保する測定・報告・検証(MRV)技術は、まさにスマート林業の技術群と重なります。

ビジネスとしての森林クレジット――誰が収益を得るのか

森林クレジット市場のプレイヤーは、(1)森林所有者・自治体・森林組合などの創出者、(2)計画策定やMRVを支援する支援事業者・林業テック企業、(3)クレジットを流通させる仲介・マーケットプレイス事業者、(4)オフセットニーズを持つ購入企業、に整理できます。商社・金融機関による森林ファンドや、企業による社有林・森林保有の動きも活発化しており、「森林を持つこと」自体が脱炭素経営の選択肢になりつつあります。

ただし、現状のクレジット単価と創出コストを踏まえると、森林クレジット単体で林業経営が成り立つわけではありません。あくまで木材生産+補助金+クレジットという複線的な収益構造の一角と捉えるのが実務的な見方です。それでも、これまで市場価値がつかなかった「森林の公益的機能」に値段が付き始めたことの意味は大きく、森林の価値評価をめぐるビジネスは今後も拡大が見込まれます。生物多様性クレジットなど次の展開は将来展望で取り上げます。