REPORT 07

主要企業とスタートアップの動向

スマート林業・林業テックの市場には、山林を経営する大手企業から、機械メーカー、測量・IT企業、そして新興のスタートアップまで、多彩なプレイヤーが参入しています。本ページでは、レイヤーごとに主要企業の動きを整理し、業界の構造を俯瞰します。なお、記載は公開情報に基づく現況の紹介であり、特定企業の推奨を目的とするものではありません。

大手林業・製紙企業の森林戦略

国内で大規模な社有林を経営する企業の代表格が住友林業です。国内約4.8万haに加えて海外でも大規模な森林を管理し、2022年に発表した長期ビジョンでは「森林価値の最大化」を掲げ、米国などでの森林ファンド事業を立ち上げました。機関投資家の資金で森林を取得・管理し、木材収益とカーボンクレジット収益を組み合わせて運用するモデルで、「森林アセットマネジメント」という新しい事業領域を切り開いています。木造超高層の研究構想「W350計画」など、川下の木造建築との垂直統合も同社の特徴です。

王子ホールディングス日本製紙は、国内有数の社有林保有企業(両社あわせて国内数十万ha規模)として、製紙原料にとどまらない森林価値の活用を進めています。森林由来クレジットの創出・販売、苗木生産技術(コンテナ苗・エリートツリー)、木質新素材(セルロースナノファイバー等)の開発など、「森林資源×素材テクノロジー」の方向で事業を広げています。このほか、三井物産(社有林「三井物産の森」約4.4万ha)や、飛島建設・熊谷組などゼネコン、鉄道・電力会社による森林保有・整備参入も見られ、社有林のクレジット化・ESG活用は大企業に共通するテーマとなっています。

林業機械・測量機器メーカー

建設機械最大手のコマツは林業機械を戦略事業と位置づけ、油圧ショベルベースのハーベスタ等を国内外で展開するほか、林業機械のICT化・スマート林業実証にも参画しています。国内専業では、ウインチ・集材機で長い歴史を持つイワフジ工業、グラップルなどアタッチメントに強い南星機械松本システムエンジニアリングなどが、日本の急峻地形に適した機械を開発してきました。北欧系(ポンセ、コマツフォレスト等)の輸入機も大型現場で存在感を持ちます。

測量・地理空間分野では、航空測量大手のアジア航測パスコが航空レーザ計測と森林資源解析のサービスを提供し、都道府県の森林クラウド構築を支えています。GNSS受信機・ドローン測量機器のメーカー、GISソフトベンダーも含め、「森林の計測とデータ化」は測量業界にとって成長市場となっています。

スマート林業・林業テックのプレイヤーマップ(当サイト整理)

レイヤー主なプレイヤービジネスの焦点
森林経営・木材住友林業、王子HD、日本製紙、三井物産など社有林経営、森林ファンド、クレジット
林業機械コマツ、イワフジ工業、北欧系メーカーなど高性能林業機械、自動化・遠隔操作
測量・解析アジア航測、パスコ、測量系スタートアップ航空・地上レーザ、資源解析、森林クラウド
林業テック新興ドローン物流、AI検収、苗木、獣害対策各社現場課題の個別ソリューション
流通・マッチング木材流通プラットフォーム事業者丸太・製材のオンライン取引、直送化
金融・商社商社、銀行、保険、投資ファンド森林投資、クレジット取引、リスク商品

代表的な類型の例示です。実際には複数レイヤーにまたがる企業が増えています。

[PR]

林業テックスタートアップの類型

2010年代後半から、林業の現場課題に特化したスタートアップが相次いで登場しています。事業領域はおおむね次の類型に整理できます。

林業テックスタートアップの特徴は、ソフトウェア単体ではなく現場オペレーションと一体のサービスとして価値を出している点です。林業は現場条件の変動が大きく、机上のアルゴリズムだけでは機能しないため、地域の林業事業体・森林組合との協業体制を築けるかが成長の分水嶺となっています。

商社・金融の森林投資とクレジット市場参入

脱炭素の潮流は、これまで林業と縁の薄かった商社・金融セクターを森林に向かわせています。総合商社は国内外の森林アセット取得やクレジット創出事業への出資を進め、金融機関は森林を対象とした投資ファンド、林業経営体向けファイナンス、森林保険・災害リスク商品の開発に動いています。カーボンクレジットの取引所取引(東証のカーボン・クレジット市場)が始まったことで、森林由来クレジットの価格発見と流動性が徐々に高まりつつあることも、資金流入を後押ししています。

また、非鉄・エネルギー・鉄道など異業種の大手企業がCSR・ESGの枠を超えて森林事業に参入する例が増えています。自社排出のオフセット手段の内製化、地域共生、木質バイオマス燃料の確保など動機は多様ですが、共通するのは「森林を長期保有に値する資産」と見なす評価の変化です。こうした資金の流入は、山林の取引価格や林業サービス市場に静かな構造変化をもたらし始めています。

業界構造――森林組合・素材生産事業体との連携モデル

最後に、業界の土台である現場側の構造に触れます。全国に約600ある森林組合は、組合員(森林所有者)の森林管理を担う協同組織として、依然として造林・保育の中心的な担い手です。素材生産では、民間の素材生産事業体(林業会社)が生産量の過半を担い、規模拡大と機械化投資を進めています。

スマート林業のビジネスは、これら現場組織との連携なしには成立しません。テック企業が技術を持ち込み、森林組合・事業体が現場実装を担い、自治体が森林環境譲与税等で初期導入を支える――この三者連携が、現在の日本のスマート林業の標準的な実装モデルとなっています。大手資本の森林投資も、実際の施業はローカルの事業体に委ねられるため、現場の担い手の生産性こそが業界全体の制約条件であるという構図は変わりません。だからこそ、機械化・DX・人材育成への投資が業界全体の共通利益となっているのです。