REPORT 01

日本林業の現状と課題

日本は国土の約67%を森林が占める世界有数の森林大国です。戦後に植えられたスギ・ヒノキ人工林はいま利用期(主伐期)を迎え、資源としては空前の充実期にあります。ところが、林業の収益構造や担い手の問題から、その資源を十分に活かしきれていないのが現状です。本ページでは、スマート林業や林業DXが求められる背景として、日本林業の現状と課題を基礎データから整理します。

森林大国日本の資源構造――人工林の半数以上が主伐期に

日本の森林面積は約2,500万haで、国土面積の約3分の2に相当します。この森林率はフィンランドやスウェーデンと並ぶ世界トップクラスの水準です。このうち約1,000万haがスギ・ヒノキ・カラマツなどの人工林で、その多くは戦後復興期から高度経済成長期にかけての拡大造林政策で植えられたものです。

植栽から50年以上が経過した現在、人工林の半数以上が一般に主伐可能とされる50年生を超えています。森林蓄積(立木の幹材積の総量)は約56億m3に達し、毎年約7,000万m3ずつ増え続けています。つまり日本の森林は「資源が足りない」のではなく、「使うべき時期を迎えた資源が使われずに積み上がっている」状態にあります。この成熟した森林資源をどう循環利用するかが、国産材ビジネスとスマート林業のすべての出発点となります。

人工林の齢級構成イメージ(面積比の概況)

10年生以下
少ない
11〜30年生
少ない
31〜50年生
多い
51年生以上
約6割

林野庁「森林・林業白書」の齢級構成データをもとに当サイトが概況を図式化。高齢級への偏りと若齢林の少なさ(=植え替え不足)が読み取れます。

注目すべきは齢級構成の偏りです。50年生超の高齢級に資源が集中する一方、10年生以下の若い人工林は極端に少なくなっています。これは後述する再造林の停滞を意味しており、このまま推移すれば数十年後には利用可能な森林資源が細るという「森林の高齢化」問題につながります。

林業産出額と素材生産の現況

日本の林業産出額は近年おおむね5,000億円前後で推移しており、そのうち木材生産が約6割、きのこ類など特用林産物が約4割を占めます。農業総産出額(約9兆円)と比較すると小さな産業に見えますが、川下の製材業・木材加工業・住宅産業・製紙業まで含めた木材関連産業全体では数兆円規模の裾野を持ちます。

丸太の生産量を示す素材生産量は年間約3,400万m3前後で、ウッドショック以降の国産材回帰を背景に緩やかな増加傾向にあります。用途別では製材用が最も多く、次いで合板用、木質バイオマス発電の拡大を受けた燃料材(チップ・ペレット)用が続きます。かつてはほぼゼロだった合板用国産材の利用が大きく伸びたこと、燃料材需要が新たな出口として定着したことが、この20年の大きな構造変化です。

地域別に見ると、素材生産量の上位は北海道、宮崎県、岩手県、大分県、熊本県などが常連です。特に九州南部はスギの成長が早く、大型製材工場や木質バイオマス発電所が集積しており、日本で最も素材生産の「産業化」が進んだ地域とされています。スマート林業の導入や高性能林業機械の普及率も、こうした素材生産の盛んな地域で高い傾向があります。

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収益構造の課題――立木価格の長期低迷と高い生産コスト

日本林業の最大の課題は収益性です。山元の立木価格(伐採前の立木の価格)は1980年前後のピーク時と比べ、スギで数分の1の水準まで下落したまま長期低迷が続いています。丸太価格そのものはウッドショックで一時急騰しましたが、山元に還元される利益は限定的でした。

収益性を圧迫している要因は、次のように整理できます。

この「伐っても儲からない、植えるともっと赤字になる」という収支構造こそが、再造林の停滞や担い手不足の根本原因です。逆に言えば、レーザー測量による境界・資源の見える化、高性能林業機械による伐出コストの削減、森林クレジットによる新収益の創出といったスマート林業・林業テックの価値は、この収益構造の改善に直結するからこそ注目されています。

再造林率の低さと「森林の若返り」問題

主伐後に再び苗木を植える再造林の実施率は、全国平均で3〜4割程度にとどまるとされています。残りの6〜7割は伐採後に植林されない「伐り捨て型」の土地利用となり、天然更新に委ねられるか、放置されて災害リスクの高い裸地・低質林になる懸念があります。

再造林が進まない直接の理由はコストです。前述のとおり造林初期費用は重く、獣害(シカによる苗木食害)対策の柵設置費も年々増加しています。この課題に対しては、伐採と造林を同じ事業者が一貫して行う「伐採・造林一貫作業システム」、成長の早いエリートツリーや早生樹(コウヨウザン等)の活用、下刈り回数の削減、苗木運搬のドローン活用など、コストを3〜4割圧縮する取り組みが各地で進んでいます。将来展望のページで詳述しますが、再造林の低コスト化はスマート林業の主要な適用分野の一つです。

森林環境譲与税と市町村の役割拡大

制度面での大きな変化が、2019年度から配分が始まった森林環境譲与税と、2024年度に課税が始まった森林環境税(一人年額1,000円)です。年間約600億円規模の財源が都道府県・市町村に配分され、手入れの行き届かない森林の整備、担い手育成、木材利用の促進、普及啓発などに充てられています。

あわせて2019年に始まった森林経営管理制度により、経営管理が行われていない私有林について、市町村が所有者から経営管理の委託を受け、意欲と能力のある林業経営者につなぐ仕組みが整いました。これにより市町村の林務行政の役割が急拡大しましたが、多くの市町村では林務専門職員が不足しており、森林情報の整備やゾーニングを支援する森林クラウドやリモートセンシングといった林業DXツールへの需要が高まっています。自治体向けソリューションは、林業テック企業にとって重要な市場となっています。

日本林業の課題構造(当サイト整理)

課題現状対応するスマート林業技術
資源情報の不正確さ森林簿と実態の乖離、境界不明確航空・地上レーザー測量、森林クラウド
伐出コスト高急峻地形・低い路網密度高性能林業機械、ICT生産管理、路網設計支援
再造林の停滞再造林率3〜4割、獣害・下刈り負担一貫作業、エリートツリー、苗木運搬ドローン
担い手不足就業者約4.4万人、高い労災率機械化・遠隔操作、安全管理IoT
収益源の乏しさ立木価格の長期低迷森林クレジット、木材SCM効率化

課題と技術の対応関係は代表例です。詳細は各テーマ別ページをご覧ください。

以上が日本林業の現在地です。豊富な森林資源、拡大する国産材需要、整いつつある制度と財源という追い風の一方で、収益構造と担い手という構造課題が残る――このギャップを埋める手段として、次ページ以降で解説する林業DX、高性能林業機械、森林クレジットが急速に存在感を高めています。

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