REPORT 06

林業の担い手・人材問題の現況

主伐期の森林資源も、高性能林業機械も、それを動かす「人」がいなければ価値を生みません。林業就業者は約4.4万人まで減少し、増大する伐採・再造林の仕事量に対して人手が足りない状況が続いています。本ページでは、担い手の現状、新規就業の仕組み、労働安全と処遇の課題、そしてスマート林業が人材問題に果たす役割を整理します。

林業就業者数の推移――減少の中の構造変化

国勢調査ベースの林業就業者数は、1980年の約14.6万人から一貫して減少し、近年は約4.4万人となっています。40年余りで3分の1以下になった計算です。ただし内訳を見ると、単純な衰退とは異なる構造変化が読み取れます。

第一に、若年者率の回復です。林業の35歳未満の若年者率は2000年代以降むしろ上昇傾向にあり、高齢化が進む農業と対照的な動きを見せています。これは後述する「緑の雇用」による計画的な新規参入の効果とされます。第二に、雇用の事業体への集約です。かつての家族経営的な林家中心の就業から、森林組合や民間の素材生産事業体に雇用される形態へと移行し、専業化・技能の組織化が進みました。問題は、この4.4万人という規模が、主伐期を迎えた1,000万haの人工林を「伐って、使って、植える」には明らかに足りないことです。伐採から再造林・保育までの労働需要は今後も増える見通しであり、省力化なしには回らない構造になっています。

林業就業者数の推移(概況)

1980年
約14.6万人
2000年
約6.7万人
2010年
約5.1万人
2020年
約4.4万人

国勢調査に基づく概況。減少は続くものの、35歳未満の若年者率は他の一次産業に比べ高い水準を保っています。

「緑の雇用」と新規就業の入口

林業の新規就業を支える中核的な仕組みが、2003年度に始まった「緑の雇用」事業です。林業経験のない新規就業者を雇用した事業体に対して研修経費を支援し、3年間のOJT研修(フォレストワーカー研修)を通じて、伐木造材・機械操作・安全管理などの技能を段階的に習得させます。その後もキャリアアップに応じて現場管理責任者(フォレストリーダー)、統括現場管理責任者(フォレストマネージャー)への研修体系が用意されており、これまでに2万人以上がこの制度を通じて林業に入職したとされています。

入口としては、都道府県の林業労働力確保支援センターや「森林の仕事ガイダンス」といった就業相談会、林業大学校(近年、開校が相次ぎ全国で20校超)などが機能しています。地方移住への関心の高まりや、自然の中で働くライフスタイルへの支持を背景に、都市部からの転職者が一定数を占めるのが林業の特徴です。一方で、就業後数年での離職率の高さも指摘されており、定着支援――すなわち安全と処遇――が次の課題となっています。

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労働安全――全産業平均の約10倍という災害率

林業が向き合わなければならない最大の課題が労働安全です。林業の労働災害発生率(死傷年千人率)は全産業平均の約10倍と、産業別で最も高い水準にあります。伐倒木の予期しない動き、かかり木処理、急斜面での転落など、チェーンソーによる伐木作業に関連する災害が中心です。2020年には伐木作業の安全規則が強化され、防護衣(チェーンソーパンツ)の着用義務化などが図られました。

安全対策としての機械化・自動化の意義は明確です。ハーベスタによる伐倒はチェーンソー伐倒に比べ作業者が保護されたキャビン内にいるため安全性が高く、遠隔操作・自動化が実現すれば、危険作業そのものを人から切り離せます。また、作業員の位置情報共有、バイタル監視、通信アプリによる緊急連絡体制といった安全管理のICT化も、通信環境の改善とともに現場への導入が進んでいます。安全性の向上は、人材確保の観点でも「選ばれる産業」になるための必須条件です。

処遇改善――通年雇用化・月給制への移行

林業の賃金水準は全産業平均を下回り、かつ日給制・出来高制の事業体が依然として多いことが、定着率の低さの一因とされています。天候によって作業ができない日は収入が減る不安定さは、住宅ローンや子育てを考える世代にとって大きな障壁です。このため、造林・伐採・特殊伐採・獣害対策などを組み合わせて年間を通じた仕事量を確保する通年雇用化月給制への移行、社会保険の完備、資格取得支援といった処遇改善が業界の重点課題となっており、森林環境譲与税を担い手対策に充てる自治体も増えています。

生産性の向上なくして賃金の向上はありません。1人1日あたりの生産量を高める機械化・ICT化は、処遇改善の原資をつくる取り組みでもあります。先進的な素材生産事業体では、生産データに基づく歩合と月給を組み合わせた給与体系や、オペレーター技能の等級制度を導入し、「稼げる林業」のモデルを示し始めています。

スマート林業と人材問題――省力化と技能継承

スマート林業は人材問題に対して二つの面から効きます。一つは省力化です。レーザー測量による調査業務の削減、ドローンによる運搬労務の軽減、機械化による伐出の効率化は、限られた人数で増大する仕事量をこなすための直接的な手段です。特に、これから増える再造林・保育の労働需要に対しては、下刈りの機械化や低密度植栽などの省力化技術が不可欠とされています。

もう一つは技能継承です。熟練者の頭の中にあった「山を読む」知識――地形に応じた路網の入れ方、木の狙い通りの倒し方、市況を踏まえた採材判断――を、データとシミュレーション、機械のアシスト機能に置き換えることで、新規就業者の育成期間を短縮できます。VRによる伐倒シミュレーター研修や、ICTを扱える若手を「スマート林業人材」として育成する研修プログラムも各地で始まっています。人が減るからテクノロジーで補うのではなく、テクノロジーがあるから人が集まる産業へ――これが担い手問題をめぐる業界の目指す方向です。