REPORT 02

林業DXの現在地――ドローン・レーザー測量・ICT

「山のことは現場に入らなければ分からない」――長くそう言われてきた林業が、いまデータの産業へと変わりつつあります。航空レーザ測量は森林を単木単位で見える化し、ドローンは苗木や資材を空から運び、クラウドは山側と工場側の情報を直結させます。本ページでは、スマート林業の中核である林業DXの主要技術と、その実装の現在地を解説します。

なぜ林業にDXが必要なのか

林業DXが求められる背景には、林業特有の情報問題があります。第一に、森林資源情報の不正確さです。行政が保有する森林簿の樹種・材積・林齢のデータは、現地の実態と大きく乖離していることが珍しくありません。正確な資源量が分からなければ、素材生産の事業計画も、木材の安定供給契約も、森林クレジットの算定も精度を欠きます。

第二に、現場作業の属人性です。毎木調査(立木を1本ずつ測る調査)や境界の把握は熟練者の経験に依存し、膨大な人手と時間を要してきました。担い手が減少するなかで、この労働集約的な調査業務は真っ先に効率化が求められる領域です。第三に、サプライチェーンの分断です。山側(素材生産)と川下(製材工場・合板工場)の間で需給情報が共有されず、丸太の過剰在庫と欠品が同時に起こる非効率が長年指摘されてきました。林業DXはこれら三つの分断――「森林情報」「現場作業」「流通」――をデジタルでつなぎ直す取り組みと整理できます。

レーザー測量による森林の見える化――単木単位の資源把握

林業DXの土台となるのが、レーザー測量(LiDAR)による高精度な森林資源データです。航空機から地上へレーザーを照射する航空レーザ測量では、樹冠の高さと地盤の標高を同時に取得でき、そこから樹高・立木本数・材積を広域にわたって推定できます。解析技術の進歩により、現在では1本ごとの立木を識別する単木解析が実用レベルに達しており、「どの尾根にどれだけのスギがあり、平均樹高は何mか」を机上で把握できるようになりました。

より詳細なデータが必要な場合には、ドローンにレーザースキャナを搭載するUAVレーザ測量や、地上に設置・携行するスキャナで幹の曲がりや直径まで計測する地上レーザ測量が使われます。胸高直径や幹の形状まで取得できるため、丸太としての採材シミュレーションや買い取り価格の見積もりに直結する精度が得られます。

これらの点群データは、境界の推定や路網設計にも威力を発揮します。詳細な地形データ(微地形表現図)からは尾根・沢・崩壊地形が明瞭に読み取れ、伐採計画や作業道の線形設計、さらには山地災害リスクの評価まで、これまで踏査に頼っていた業務の多くが図上で行えるようになりました。都道府県による航空レーザ計測データのオープンデータ化も進んでおり、林業テック企業がデータ解析サービスで参入する動きが活発です。

森林調査手法の比較(当サイト整理)

手法把握できる情報特徴
従来の毎木調査胸高直径・樹高(実測)高精度だが多大な人手と時間、危険を伴う
航空レーザ測量樹高・本数・材積・微地形(広域)広域を一括取得、単木解析が実用化
UAVレーザ/写真測量樹高・本数・樹冠(局所〜中域)機動性が高く低コスト、更新頻度を上げやすい
地上レーザ測量直径・幹形状・曲がり採材シミュレーション級の高精度

実務では複数手法を組み合わせ、目的(資源把握・境界推定・路網設計・クレジット算定)に応じて使い分けます。

林業ドローンの活躍領域――運搬・調査・獣害対策

林業ドローンは、調査だけでなく「運ぶ」領域で急速に普及しています。代表例が苗木運搬です。再造林の現場では、苗木を人が背負って急斜面を運ぶ作業が大きな負担でしたが、物流ドローンを使えば1回で数十本の苗木を数分で植栽地へ届けられ、運搬労務を大幅に削減できます。同様に、下刈り用の燃料、鹿害防護柵の資材、ワイヤーロープの先行索など、山中への資材運搬全般でドローンの活用が広がっています。

調査系では、写真測量による植栽後の活着確認や成長モニタリング、赤外線カメラによるシカ・イノシシなど獣害動物の生息調査、松くい虫・ナラ枯れ被害木の探索など、上空からの定期観測が実装されています。農薬・肥料散布や、スギ花粉の飛散源対策調査への応用も進みます。機体の価格低下と操縦ライセンス制度の整備により、素材生産事業体や森林組合が自社運用するケースが増えている点も近年の特徴です。

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森林クラウドとICT生産管理

取得した森林データを行政・林業事業体・木材産業で共有する基盤が森林クラウドです。多くの都道府県で、森林簿・森林GIS・航空レーザ解析結果を統合したクラウドシステムの整備が進み、市町村や林業経営体がブラウザ上で森林情報を閲覧・更新できる環境が広がっています。森林経営管理制度の運用(意向調査やゾーニング)でも、森林クラウドが実務の基盤となっています。

生産現場では、ICT生産管理システムの導入が進みます。ハーベスタが伐採時に取得する丸太の径級・材長データ(生産日報)をクラウドに自動集約し、土場の在庫をスマートフォンで撮影するだけで丸太の本数・材積を推定するAI検知(検収)アプリと組み合わせることで、山側の在庫がリアルタイムで見える化されます。これにより、製材工場との直送体制や需給マッチングが可能になり、中間土場の在庫圧縮・輸送コスト削減につながります。木材SCM(サプライチェーンマネジメント)の効率化は、国産材の安定供給力を左右する競争領域になりつつあります。

デジタル林業戦略拠点――地域実装のフェーズへ

個別技術の実証から地域全体での実装へ――この流れを後押しするのが、林野庁が2023年度に開始した「デジタル林業戦略拠点構築推進事業」です。都道府県単位で林業事業体・木材産業・測量/IT企業・行政がコンソーシアムを組み、レーザー計測データの共有、ICT生産管理、木材流通マッチングなどを一体的に社会実装するモデルづくりが進められています。

スマート林業は「実証実験どまり」と揶揄された時期もありましたが、森林環境譲与税という財源、レーザー計測データの全国的な整備、そして担い手不足という切実な需要が重なり、2020年代半ばの現在は明確に実装フェーズへ移行しています。林業DX市場は、測量・解析、ドローン、クラウド、AI検収、流通マッチングと裾野が広く、異業種からの参入余地が大きい領域です。主要プレイヤーの顔ぶれは主要企業とスタートアップのページで詳しく整理します。