ニュースの概要
GoogleとMcKinseyは、ブラジルの森林と牧草地を組み合わせた事業から、10年間で合計32万トンの炭素除去クレジットを買う契約を結んだ。事業を進めるのは気候テクノロジー企業のWorking Treesである。傷んだ牧草地に商業用の樹木と在来種を植え、牛の放牧は続けたまま、炭素の吸収量を増やす。対象はブラジル南東部のアマゾン地域とセラード地域で、8,700ヘクタールの劣化した土地が再生される計画だ。木を植えるために牧場をやめるのではなく、牧場の中に森をつくるという発想が特徴である。大手企業が長期で買い取ることで、事業の資金面の見通しも立ちやすくなる。
引用元: GoogleとMcKinsey、ブラジルの森林・牧草地再生事業で炭素除去契約(Reuters)
分析・見解
牧場を閉じずに森を足す、シルボパスチャーの仕組み
シルボパスチャーとは、一つの土地で木と牧草と家畜を同時に育てる方式である。木陰ができて牛が暑さに強くなり、土の水分も保たれやすい。その結果、牧草の質が上がり、肉や乳の生産性も落ちにくい。
これまでの植林は、牧場をやめて森に変える発想が中心だった。しかし、牧場主にとっては収入が途絶えるため、話が進みにくかった。放牧を続けながら木を足す方式なら、土地の持ち主は収入を保ったまま参加できる。
32万トンを10年で割ると見えてくる、事業の現実的な規模
32万トンを10年で割ると、年あたりは約3万2,000トンである。8,700ヘクタールで割れば、1ヘクタールあたり年に約3.7トン強の吸収を見込む計算になる。熱帯の植林としては、無理のない水準だ。
大企業の排出量から見れば、この数字は大きくない。ただ、狙いは量よりも質にある。長期の買い取り契約があれば、事業者は金融機関から資金を借りやすくなり、苗木や柵、管理人員への先行投資ができる。10年という期間は、木が育つ時間に合わせた設計だと読める。
商業用樹木と在来種を混ぜる、収益と生態系の両立
今回の特徴は、商業用の樹木と在来種を組み合わせる点にある。商業用の木は成長が早く、将来は木材として売れる。在来種は成長が遅い一方、生き物の住みかになり、森としての厚みをつくる。
収益だけを追えば、成長の早い木一種類に偏りがちだ。そうなると病害虫に弱く、炭素の貯蔵も不安定になる。混ぜて植えるのは、リスクを分散する工夫でもある。日本の人工林が単一樹種で抱える課題と、構図はよく似ている。
買い手が求める品質と、クレジット価格への波及
近年、買い手は安さより確かさを重視する傾向が強い。吸収した炭素がすぐ放出されないか、第三者が測れるか、地域の人々に利益が届くか。これらが問われている。
GoogleやMcKinseyのような買い手が、10年契約で品質の高いクレジットを選ぶと、市場の基準も上がっていく。低品質のクレジットは売りにくくなり、確かな測定や監視にお金をかける事業者が有利になる。この流れは、日本の森林由来クレジットにも及ぶだろう。
ビジネスへの影響
林業・土地所有者が学べる、収入を残したままの森づくり
今回の事例の核心は、既存の収入源を止めずに炭素の収入を足す点にある。日本でも、放置された農地や牧草地、里山の周辺で、同じ考え方は使える。木材、きのこ、放牧、観光と組み合わせれば、クレジットだけに頼らない収益の柱ができる。
実務では、まず自社や自治体の土地で、吸収量を測れる区画を決めることが先決である。測定の記録が整っていないと、買い手と交渉する段階で不利になる。
長期買い取り契約を前提にした資金計画の立て方
買い手側の企業にとっては、単発の購入より複数年契約のほうが、供給の確保と価格の安定につながる。事業者側も、契約書を担保に資金調達を考えやすい。
意思決定者が確認すべき点は三つある。第一に、吸収量の測定方法と第三者の検証体制。第二に、火災や干ばつで木が失われたときの補填の取り決め。第三に、地元住民との利益配分である。
この三点が弱い案件は、価格が安くても避けるほうが安全だ。後から評判の問題になれば、購入した企業の信用にも傷がつく。国内でも、森林の価値を数字で示す仕組みの整備が、今後の競争力を左右するだろう。